雨は嫌いだ。


でも時々雨が好きになる。


流れた涙が誤魔化すことが出来るから。














                                      









            雨、僕の涙が枯れるまで降るべし














朝起きると今まで抱いていた華奢な体が居なくなっていた。
それは紛れもなく事実である。空虚でも妄想でも何でもない。
俺が何をしたのだろうと勝手に問いかけてみる。誰も居ないのに。
荒々しく開け閉めした様子の無い扉。綺麗に片付けられた室内。
最後だからか?君は出て行くと決心したからか。
発つ鳥跡を汚さず。発つ鳥とは君だったのか?

ごろごろと耳障りな音が空中に響いてこだまする。目を伏せたくなるような光とともに。
その後さぁ、と鳴って雨が舞い降りてくるのが分かった。
何もする気が起こらない。君を追いかけようともしない。
雨が鬱陶しい。濡れたくない。
それに加えて空しさと何をしたのか分からない自分への怒りが込み上げて体を押さえた。

携帯が鳴る。着信したようだ。相手は君。
出る気がしない。自分から出て行ったのになんだって言うんだ。
脳でそう言い聞かせながらも本能が働いて携帯を耳に当てる。

ごめんねと微かに聞こえる。今まで気にしなかった標準語が耳に付く。
どういうことやねんと言い返す。怒りの篭った声で。
出て行った理由を聞かずに入られなかった。でも君は、答えなかった。
君の後ろには何が居る?かしゃんとなる鉄格子の音、ごうという電車の走る音。





君はどこか遠くへ行く気か?僕の夢見た東京か?



もしかして僕の届かないあの地へ?



そんなの、嫌だ―
























知らないうちに体は扉の外へ飛び出していた。
もうこの年になって走るのは辛いと感じていたが、今だけは特別だった。
横殴りの雨が降ってくる。まるで自分に行くなとせがむ様に。
目が眩みそうな光が視界に入ってくる。まるでやめろ、と言うように。

一歩地を踏むたびにぱんと水飛沫が上がる。ぴしゃりと衣服にしがみ付く。
水滴なのか汗なのかそれとも涙なのか分からないが、ほほを伝い、顎を伝う。
はあはあと呼吸が乱れる。喉がからからになる。

鉄格子なんてどこにあるか分からないし電車だって大阪にはごまんと走っている。
でも走っていたら君に合えると思うから。信じてるから。
君は僕の手の届くところに居るのだから。

















ふと視界に入るのは風が吹くたびかしゃんとなる鉄格子。
電話のとき聞いた音と酷似している。
そしてごうという電車の走る音。間違いない、君が居る。







走る。でも催眠術にでも掛かっているようにゆっくりと君へ近づく。
呼吸の仕方なんて忘れてしまった。もうとっくに。
目的は君だけだった。君を見つけて抱きしめたい、今すぐ。今すぐ。

























      て   る   も   と  ・  ・  ・  。
























もう雨の音なんて聞こえやしない。雷光なんて見えない。
君の声が僕を呼ぶ。僕は君めがけて走るだけ。
























       ご  め  ん  ね  ・  ・  。
























電話の第一声と同じ言葉を発して倒れた君。
もう少し、もう少しで僕は君を抱きしめられるのに―。
























                あ  り  が  と  ね
























君の手首からは生暖かい鮮血がどくどくと流れている。
止まることを知らない、僕のように。



手首をぐっと握って止血を試みたがもう遅かった。
君は青白い顔をして目を瞑ってしまった。
目には涙、口には微笑み。
いったい何を喜んでいるの?何を悲しんでいるの?
僕には理解できないよ、君の心が―。
























無意識のうちに今まで出したことも無い涙がどっとあふれ出る。
その涙は君の顔に落ちて化粧を少しばかし溶かした。
























雨 雨 雨よ降れ


僕の涙が枯れるまで降ってくれ


そして僕の心も洗い流しておくれ





そして彼女の魂を





遥かなる 空へと―






















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暗ぁぁぁっ!
死にネタ初めてだー。
ごめんよ落陽!


(2001/6/21 16:12執筆終了 瑠智吾)









































 
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